舞ながら瞑想状態に!「あること」を意識的にゆっくりやるだけ
日本の武道や茶道の作法に禅が取り入れられていることは有名です。しかし、能楽や舞楽、神楽舞など古くから伝わる踊りのなかにも瞑想に繋がっている動きが取り入れられているのは、意外と知られていないのではないでしょうか。
あぐらをかき目を閉じて心を無にする方法がポピュラーな瞑想と正反対に、舞は音楽に合わせて体を動かします。一見結びつかなさそうな「瞑想」と「舞」ですが、どのように繋がっているのでしょうか。
- 舞とは何なのか
- 瞑想とは何なのか
- 舞と瞑想の関連性はどこか
を深く掘り下げていこうと思います。
記事中に瞑想を取り入れた舞の動画も紹介しています。瞑想と舞が混ざり合った美しい踊りをぜひご覧になってみてください。
「舞う瞑想」とはこちら。
舞と瞑想について
瞑想とは?
歴史は古く、いまから約5,000年前の、紀元前3,000から2,500年のインダス文明の頃にブッダが、ブッダガヤの地で悟りを開いた時に行っていたのがこの瞑想だと言われています。今では世界中で取り入れられているこの瞑想の目的は、「心が無になる状態を目指す」ことです。それは「脳を休ませること」と同じ意味を表します。
誰しも一度でも日常の中で頭に浮かんでくるさまざまな雑念に惑わされ、「今やるべきこと」に集中できない、あるいは仕事のミスやプライベートでの悩みの渦に巻き込まれ、何をしてもため息ばかりの日を過ごしたことはあるのではないでしょうか。
その雑念を瞑想する中であるがままに受け止め、客観的に見れるように繰り返しトレーニングをしていくことで、自身の感情をコントロールしていくことができるのです。
そんな瞑想には大まかに分けると4種類の方法があります。
- 静かに座って行う(静座瞑想法)
- 様々なポーズをとるヨガ
- 集団で母音を低い声で続けて発する倍音声明(Overtone chanting)
- 太極拳やスーフィーの旋回舞踊ダーウィッシュ・ダンスのような動きながら行う
中には武道や舞踊、滝行を行う間に気がつけば瞑想をしていたという人もいます。
4つ目の項目に出ていた動きながら行う瞑想には、舞も含まれています。ではその舞とは一体どのようなものなのでしょうか。
舞とは?
歌や音曲に合わせて踊るもので、日本舞踊では踊り方が「舞」と「踊り」2種類に分かれています。
- 踊り
盆踊などのようにリズムに乗った跳躍の動作を主体とする舞で庶民的な明るいイメージ
- 舞
巫女舞などのようにテンポが比較的ゆるやかで、手振りの種類が少なく、地面または床から足を上げることが少なく、旋回動作を主体とする貴族的で上品なイメージ
ダンスの和訳として舞踊という言葉が出てきてからはあまり区別はされなくなりましたが、明治時代以前までは区別されて理解されていました。
このように舞の定義については理解できても、そこから瞑想とどう結びつくのかわかりづらいですよね。
舞と瞑想にどのような関連性があるのか見ていきましょう。
瞑想と舞の関連性は?
どのようなスポーツでもそうですが、体を動かしていると普段より邪念が少ないなと感じたり、不思議と焦りとストレスがなくなると感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は体を動かすことは休むことと同様、脳にとっては非常にいい「疲労回復法」になるのです。
つまり、体を動かすことは「脳を休ませ回復させる」ことになる。言い換えると「心を無にする」状態に近づけることができるのです。さらには舞には瞑想と同じ「あること」を行います。
それは「呼吸」です。
瞑想では目を閉じながら呼吸を整えリラックスするのに対し、舞ではゆっくりと動くことによって呼吸を整えていくのです。その動きはまるで「ヨガ」のようにゆっくりと進んでいきます。
試しに5秒かけて手を上に伸ばしてみてください。または10秒かけて肩を回してみても良いです。すると普段より呼吸がゆっくりになっているのが分かると思います。人は緊張しているとき呼吸が浅くなります。体の動きをゆっくりにすることにより、呼吸が深くなりリラックス効果が起こります。それが舞の中で現れるのです。
そのことから舞と瞑想は2つの関連性があることがわかります。
- 脳を休ませ回復させることによって「心を無にする」状態に近づけることができる
- 呼吸が深くすることによりリラックス効果が得られる
このように、「呼吸」を通して舞と瞑想を融合させている舞があります。それが「観音舞」です。
柔らかな動きを舞う姿はまるで巫女のように優雅ですが、座って両手を合わせている姿はまさに瞑想しているかのように穏やかですね。
このように、舞の中に瞑想があるのです。さらに同じように、実は普段私たちの生活の中でも少し変えるだけで瞑想ができる方法があるのをご存知でしょうか。
次章では、瞑想の基礎である「呼吸の瞑想」に加えて2つ、普段私たちの生活の中でもできる瞑想法をご紹介したいと思います。
「舞う瞑想」とはこちら。
瞑想のバリエーション
呼吸の瞑想
瞑想で大事となるのが「調心」「調身」「調息」の3つといわれています。調は「整える」という意味で、心や体、さらには呼吸を整えることを言います。
「調身」
形にこだわるのではなく、楽な呼吸ができる形をつくりましょう。
尾てい骨と頭のてっぺんが一直線上になるように背筋を伸ばしましょう。これによって、深い呼吸ができるようになります。
猫背の人が背筋を伸ばそうとすると、こわばって肩が上がってしまうことがあります。その場合は肩に力を入れた後、一回力を抜いてみてゆっくり緊張をほぐしてあげてください。
また、座る場所はどこでも構いませんが、長時間座っても痛みが感じづらい椅子や座布団の上をお勧めします。また、どうしても背筋を伸ばす感覚が掴みにくいと感じた場合は壁に背を当てながら行うと良いでしょう。
「調息」
続いては呼吸です。
人は緊張しているとき呼吸が浅くなります。そこで、リラックスをするため「呼吸を3秒吸ったら、倍の時間をかけて吐く(例:3秒で吸って、6秒かけて吐く)」ことをイメージしながら呼吸をしていきましょう。
倍の時間をかけて吐く理由としては、脈拍です。呼吸をしながら自分の腕で脈拍を測ってみると、吸う時はやや速くなり、吐く時はやや遅くなるのがわかるかと思います。脈拍がゆっくりにさせることによってリラックスさせることができる証拠です。
また息を長めに吐くと、血中の二酸化炭素の濃度が高まります。これによって、感情の昂ぶりを抑えたり、精神の安定をもたらす神経伝達物質・セロトニンの分泌が増える効果もあります。
「調心」
調息、長身が整ったところで初めて行えることができるのが、この「調心」です。
心の整え方は大きく分けて3つあります。
- 特定の対象に集中するもの(体や呼吸、物や人など)
集中力をアップさせたい場合に良い
- ある対象に注意を向けるが、雑念が生じれば意識をそちらに向け、また戻す(ヴィパッサナー瞑想、マインドフルネスなど)
自分は何を考えているのか、どうなりたいのか客観的に見て受け止めたい時に良い
- 特定の対象に注意を向けないもの(禅など)
無になる状態により近づけたい時に良い
瞑想を行う時間は、基本的に10-15分が良いとされています。しかし、普段仕事や学校で忙しく中々時間が取れない方には1分でも十分効果があるとされています。
また、他にも通勤中や家に帰る途中にもトライできる瞑想法がありますよ。それが「歩くことと呼吸を意識」して行う瞑想法で、行うことにより頭がクリアになり集中力が上げることができます。
歩く瞑想
身体の力を抜きリラックスした状態にします。肩に力が入っているなと感じた場合は、肩を回すなど準備運動をすると良いでしょう。それがいわゆる「調身」です。
体が整ったと感じた後に、「調息」をしていきましょう。先ほどと同様に「3秒で吸ったら、倍の時間をかけて吐く(例:3秒で吸って、6秒かけて吐く)」ことをイメージしながら行います。リラックスをすることに集中しましょう。
リラックスし自分の体の感覚が研ぎ澄まされていくように感じたらいよいよ「調心」に入ります。ゆっくりと慎重なペースで歩き始めます。歩きながら自分の体の動き、重力の動きなどに集中しながら歩いてみてください。
(例えば足が地面から離れて上がる時、自分の重心が前へと変化する時など)
それを繰り返していくと徐々に重心がどのように移動しているのか分かるようになってくると思います。慣れてくると足以外にも上半身やお尻の動きも感じられるようになりますよ。
歩いている間、雑念が浮かんできても全然大丈夫です。それが普通ですので無理やり考えないようにすることはせずに「私はそう考えているんだ」とありのままに受け止めて、再び体に意識を戻します。
自宅から会社、もしくは学校まででも大丈夫ですし、20分や30分など自分に合う時間をセットして行っても大丈夫です。
紹介した移動中にできる瞑想法の他に実は食事中にもできる瞑想法があります。
忙しくてつい会社のことや個人的悩みなどを考えながら、あるいはスマートフォンを見ながら行ってしまう食事の中で瞑想を取り入れることができるので、どうしても時間に余裕がない方におすすめです。
食べる瞑想
いわゆる今目の前にある食事に注意を向け、時間をかけて食べることを言います。
この瞑想法は「レーズン」を使用することがポピュラーですが、苦手な方はチョコレートでも普通の食事でも構いません。普通の食事の場合は最初の2口か3口だけでも結構です。
- 観察する
目でじっくり料理を観察してみましょう。その当たり前のことに注意を向けてみるというのが食べる瞑想です。どのような形をしているか、色はどうかじーっと観察をしてみるとふと「おいしそうだ」もしくは「あまり好きではない」など観察してみた感想が自然と現れてくると思います。
それをそのまま受け入れ、次は手に持つか、箸でつまんでみましょう。重さはどうか、断面はどうなっているのかなど観察してみてください。
次にいよいよ香りを嗅いでみましょう。どんな香りがしてくるのか堪能してみてください。そこでも観察してみた感想が自然と現れてくると思います。また、体の変化も起こってくるのも分かってきます。あまりにも美味しそうで唾が沢山出てきたり、はたまた苦手意識が働き肩に力が入ったり、それも全て受け入れて感じ取ってみましょう。
- 食べる
それからゆっくりと口に入れ、味が染み出してくるのを十分に楽しみながら、ゆっくりと咀嚼していきましょう。30回から50回噛むのが理想的です。それからゆっくりと飲み込みます。すると普段感じなかった喉元の感覚があると思います。喉元から胃まで通ったと思ったら2口もまた同じようにじっくりと咀嚼していきましょう。
その調子で行うと全てを食べるのに1時間はかかってしまうため、2口3口でも構いません。「1日に必ず行う食事」に注意を向けて大切に味わっていくのが「食べる瞑想」です。続けていると普段食べ慣れているはずの食事に対して自分はそういう体の変化が起こるのか、なぜ嫌いなのかなど、新しい発見を体験できるのです。
【まとめ】瞑想と舞について
最後にまとめに入ります。
瞑想
- 瞑想とは、日常の中で頭に浮かんでくるさまざまな雑念に惑わされ、「今やるべきこと」に集中できない、その雑念を瞑想する中であるがままに受け止め、客観的に見れるように繰り返しトレーニングをしていくことで、自身の感情をコントロールしていくことができる
- 瞑想とは4種類の方法に分かれている。
- 静かに座って行う(静座瞑想法)
- 様々なポーズをとるヨガ
- 集団で母音を低い声で続けて発する倍音声明(Overtone chanting)
- 太極拳やスーフィーの旋回舞踊ダーウィッシュ・ダンスのような動きながら行う
舞
- 舞とは、歌や音曲に合わせて踊るもの
- 日本舞踊では踊り方が「舞」と「踊り」2種類に分かれている
- 踊り
盆踊などのようにリズムに乗った跳躍の動作を主体とする舞で庶民的な明るいイメージ - 舞
巫女舞などのようにテンポが比較的ゆるやかで、手振りの種類が少なく地面または床から足を上げることが少なく旋回動作を主体とする舞で貴族的で上品なイメージ
瞑想と舞の関連性
- 瞑想:目を閉じながら呼吸を整えリラックスし、一つの対象に集中する
- 舞:ゆっくりと動くことによって呼吸を整えていくことにより、踊りと呼吸に集中する
- その結果、「心を無にする」状態に近づけることができる
今では海外の企業や医療機関にも取り入れられている瞑想が実は日本の文化にも取り入れられているのは驚きですよね。神社で舞う神楽舞や、能にももしかしたら瞑想の影響を受けているかもしれません。そう考えながら見るとまた新たな世界が広がりそうです。ぜひこれを機に日本の舞をこの目で見てはいかがでしょうか。
「舞う瞑想」とはこちら。