シャーマンとは?存在する意味は?急増する隠れシャーマンとは
シャーマンと聞いて、どんなイメージを持ちますか?
何か呪文を唱えたり、呪術を使ったり、私たちとは違う、ちょっと怖い存在だなと思っていませんか?
ここでは、
- シャーマンとは何か
- 実際どんなシャーマンが日本・海外には存在するのか
についてご紹介します。
読み終えた頃には、シャーマンのイメージが明確になります。
日本のシャーマン「巫女」による舞はこちら
シャーマンとは
シャーマンのイメージを明確にするため、次の順番で確認していきたいと思います。
- シャーマンとはどういった人か
- どういう能力があるか
- 日本におけるシャーマンは?
- 現代風のシャーマンの解釈
では、みていきましょう。
シャーマンとは?その意味と定義
まずは、シャーマンがどういったものであるか、整理します。
シャーマンとは、トランス状態に入って超自然的存在と交信する現象を起こすとされる職能・人物です。
超自然的存在とは
- 霊
- 神霊
- 精霊
- 死霊
などを言います。
「シャーマン」という用語・概念は、ツングース語で「巫者、呪医、預言者、呪術師」の一種を指す「シャマン」に由来しています。19世紀以降に、民俗学者や旅行家、探検家たちによって、極北や北アジアの呪術あるいは宗教的職能者一般を呼ぶために用いられるようになりました。その後に宗教学、民俗学、人類学などの学問領域でも類似現象を指すための用語(学術用語)として用いられるようになっていったのです。
シャーマンは舞踊や呪文,あるいは太鼓,鈴,ときには興奮剤の助けをかりて神降ろしの没我境に入り,さまざまな業を行います。
どうやら、目には見えない超自然的存在と、私たちをつなぐ役割を担っていると言えそうです。
それでは、シャーマンはどのような能力・役割を持っているのでしょうか。
シャーマンの能力・役割
シャーマンの能力・役割は
- 神憑り(神霊が人に乗り移った状態)
- 死者と交信して神意を示す
- 悪霊を祓う
- 予言をする
などが基本パターンと言えます。
シャーマンの分類には、次の5パターンが考えられます。
- 脱魂型
シャーマンの霊魂が身体を離脱して霊界に赴き、諸精霊を使役する - 精霊統御者型
補助霊を駆使する - 霊媒型・憑霊型
シャーマンが神霊・精霊を自らの身体に憑依させ、人格変換が行われ、シャーマンが神霊自身として一人称で語る - 予言者型・霊感型
シャーマンは神霊・精霊と直接交信し、その意思を三人称で語る。シャーマン自身の個人的意志がある - 見者型
神霊の姿が見え、或いは声が聞こえる。神霊の意思を三人称で語る
これら複数を1人で兼ねている場合もあります。
以上がシャーマンの基礎知識になります。
ここまでで、シャーマンが主に
- 脱魂や憑依をして、超自然的存在と交信する
存在であることが分かったと思います。
次は、日本最古のシャーマンと考えられている卑弥呼についてご紹介していきます。
日本最古のシャーマン「卑弥呼」
卑弥呼は日本最古のシャーマンだったのではないか?と言われています。
それは、中国の歴史書である「魏志倭人伝」に「骨を焼き、割れ目を見て吉凶を占う」という記述があり、卜述(ぼくじゅつ=偶然に表れた象徴を用いて、事柄や事態の成り行きを占うこと)を行うシャーマンだった可能性が高いと考えられえているからです。
また、卑弥呼は「鬼道を用いて人々を魅了した」とも書かれていますが、この「鬼道」が何か分かっていません。そのため、卑弥呼の正体についてもはっきりしておらず、名前ではなく、巫女の役職名ではないかという説もあります。
古来から人々は、占いなど何かを導いてくれるものに関心があったと思うと、何だか今を生きる私たちとの共通点も感じますね。
現代においては、スピリチュアルなものに魅力を感じ、隠れシャーマンなるものが存在するとも言われています。
現代に急増する「隠れシャーマン」
シャーマニズムは、これまで説明したように超自然的存在との交信をメインとしています。これらは、ヨガや瞑想と同じような文脈で現代風にポップに明るく解釈され、スピリチュアルな体験として海外では新しい流行ととらえられ始めています。
- ヨガや瞑想に不可欠な“心身の気”を取り入れるスポットを開拓する「チャクラ」
- 呪文・真言を唱えることで精神を落ち着かせる「マントラ」
これらと同様、ストレスや憂鬱な気分を取り除くツールとしてシャーマニズムが捉えられています。
隠れシャーマンたちが足繁く通うシャーマンスクール。ここでは、シャーマン(講師)たちから
- セルフケアや自我への目覚め
- 自己実現方法、自信のつけ方
- ストレス社会における対人関係、コミュニケーションスキル
などを学ぶといいます。
何だか急に、身近なものに感じられますね。
日本のシャーマン「巫女」による舞はこちら
さて、ここまでで
- シャーマンとは何か
- どんな能力・役割があるか
- 日本最古にシャーマンと言われた「卑弥呼」
- 現代に現れた「隠れシャーマン」
について見てきました。
続いては、具体的に日本や世界に実存するシャーマンを取り上げていきたいと思います。
シャーマンの実例
それでは、これからは、日本や世界における具体的なシャーマンたちの例をみていきます。
日本のシャーマンの例として
- イタコ
- カミサマ
- ユタ
- ノロ
世界のシャーマンの例として
- オトガン
- 巫堂(ムーダン)
- エスキモー(のシャーマン)
- 媽祖(マソ)
- タンキーとアンイイ
を見ていきます。
イタコ
イタコは、日本の東北地方の北部で口寄せを行う憑依巫女です。先天的もしくは後天的に目が見えないか、弱視の女性の職業でした。
口寄せとは、霊を自分に降霊(憑依)させて、霊の代わりにその意志などを語ることができるとされる術のことです。次の4つのパターンに分類されます。
- 神口 神霊にお伺いを立てる
- 仏口 死者の言葉を伝える
- 生口 生きてる者、葬儀がまだの死者に対するもの
- 死口 葬儀が終わった死者に対するもの
日本三大霊場の1つである恐山は、死者の集まる山とされ、恐山大祭や恐山秋詣りには、イタコの口寄せが行われることでも有名です。
恐山でのイタコのイメージが強いと思いますが、イタコの本来の仕事は、自分の担当地域を巡って歩き
- 農作物の豊作、不作を予想する
- 住民の健康や運勢を占い・助言する
であったといいます。
また、イタコが行う神事としては「オシラアソバセ」と呼ばれるものがあります。東北地方の民間信仰である「オシラサマ」の御神体である二体の人形を遊ばせることです。これは、神を祭り慰める行為です。
イタコには霊的な力を持つとされる人もいますが、実際の口寄せは心理カウンセラー的な面も大きいです。目に見えない死者と、イタコという仲介者を通じて、生きている私たちが、内面を吐露しやすいという側面がありそうです。
イタコの仕事をイメージしていただく為に、「最後のイタコ」と呼ばれている松田広子さんのホームページをご紹介させていただきます。
カミサマ
カミサマも、東北地方で信仰される憑依巫女です。神様が宿るとされることが語源です。
- イタコ=自分の身体に神や霊を降ろす
のに対して
- カミサマ=自分を守護する神と対話し、相談者に助言
します。この違いからイタコは死者降ろし、カミサマは神降ろしと言われたりします。
カミサマの仕事は、守護神の力を借りて
- 相談者に取り憑いた憑き物を払う
- 病気の治療をする
などです。
また、イタコが先天的・後天的な視覚に障害を持つ方の職業となったことと比較すると、カミサマは、何らかの人生の苦悩の中で、霊能の力に目覚め、カミサマとなっていくと言われています。どういった人がなるか、という事にも違いがあるようです。
ユタ
沖縄の霊能力者であるユタは、沖縄及び南西諸島全域で活動する憑依巫女です。
別名、
- ムンスリ(物知り)
- 世救(ユタスク)
- ニガイビト
宮古島では
- カンヌブトゥ(神の人)、カンカカリャー
と呼ばれます。
後ほどご紹介する「ノロ」が公的な神事や祭事を司るのに対し、ユタは市井に暮らし、一般人相手に霊的助言を行います。
ユタの仕事は
- 占い
- 先祖霊(チチブン)を降霊し、言葉を伝える
- 先祖の供養
などがあります。
何か悩みがあったら、チチブンに問題があり、それを解決(=供養する)ことが手段だと考えられており、このチチブンという概念は大事なものとなっています。
ユタは沖縄で深く信仰されており、昔から島民の悩み相談に乗っていました。それゆえ「困ったらユタに聞け」と言われているのです。
ユタは
- チチブンと呼ばれる先祖霊を信仰する祖先崇拝
をもつ反面、全知全能の存在として、様々な神仏を崇拝の対象に取入れています。そのためユタは、祖先崇拝とは別に
- 神仏から選んだそれぞれの守護神
を持つという、自由な信仰を持っています。
キリスト教や仏教、科学知識など様々は信仰と知識を取入れて、独自の宗教世界観を持つユタもいるそうです。
ノロ
ユタに同じく沖縄のシャーマンであるノロは、奄美諸島および沖縄諸島で、村落の祭祀を司る女性祭祀者の長で、神々の依り代となる憑依巫女です。先述したユタなどを取りまとめる立場にあります。
上位神官であるノロは、琉球の神話の神々と交信し、祭祀の間はその身に神を憑依させ、神そのものになります。
15世紀、琉球王国の王は、祭政一致による支配を目指し、神女組織を制度化しました。組織は上から
- 聞得大君(ちふぃじん)=王府の最高神女
- 大阿母志良礼(うふあむしられ)3人
- 三十三君(さんじゅうさんくん)=上級神官・上級ノロ
- ノロ=各地のノロ
という序列です。
ノロは世襲制であり、特定の家系から輩出されています。市井に生きるユタとは違い、琉球王国の統制の中に位置づけられた公的な巫女であったと言えます。
続いて、海外におけるシャーマンをみていきましょう。
オトガン
モンゴルに住む少数民族ブリヤート人に伝わるシャーマニズムがあります。その女性シャーマンをオトガンと呼び、男性シャーマンと区別しています。
オトガンのシャーマニズムには次の2種類が存在します。
- バリアーシ(白)
- ボー(黒)
元々はバリアーシが神に幸せを祈り、ボーが悪霊に祈るものでしたが、昔と現在とでは、様相が変わっています。
今はバリアーシは
- 仏教の神に祈り呪術的なマッサージや骨接治療をするシャーマン
であり、ボーは
- オンゴ(精霊)やオグ(先祖霊)を降霊させ託宣を行うシャーマン
です。
従来 | 現在 | |
バリアーシ | 善き神を拝み人々の幸せを祈る | 仏教の神に祈り呪術的なマッサージや骨接治療をする |
ボー | 悪霊に祈り災厄をもたらす | オンゴ(精霊)やオグ(先祖霊)を降霊させ託宣を行う |
巫堂(ムーダン)
巫堂(ムーダン)は、朝鮮半島における憑依巫女です。楽器を奏で、踊りながら憑依降神の儀式を行います。
巫堂は
- 占い師
- 祭祀者
であると同時に
- 呪医で民間治療を行う
- 楽人芸能者として歌舞音曲を扱う
のです。
巫堂は、家系からでる世襲巫と、血筋に関係なく降神して生まれた降神巫があります。
巫堂になるには、降神の儀式「祈祷(クッ)」を行う必要があります。これは、堂主神(モムジュ)という神霊をその身に宿す儀式です。降神巫の場合、家族の犠牲(=死)が要求されることもあります。
巫堂は、山の神など土着の神を信仰しています。ただし、長い歴史の中で神と仏が融合した日本の神仏習合のように、他の宗教も入り込んでいます。仏教や道教などを同時に信仰している巫堂も多いです。この信仰の柔軟性は、ユタと共通しています。
エスキモー
アラスカ、カナダ、グリーンランドなど極北で暮らすエスキモーには、独特のシャーマニズムが存在します。
エスキモーは
- 精霊は人間に害をなす存在
と信じており、吹雪が起きるのも、大気の精霊が荒ぶっているからと考えます。そのため、シャーマンは
- 下級の精霊を使って、精霊と交渉する
という役割を持っています。神や霊を味方につけ災厄をはらおうとする他のシャーマンとの違いが見られます。
厳しい自然環境下で暮らすエスキモーにとって、シャーマンは必要不可欠です。部落にシャーマンがいないと、飢餓や不漁、悪天候に苦しめられたと言われています。シャーマンの重要な役割は、災厄の根源を見つけ、対策を練ることであり、精霊にとって
- どのタブーを守らなかったから災いが起きたか
- どうすれば怒りが治まるのか
を診断し、儀式によって怒りを鎮めることも行います。
媽祖(マソ)
媽祖(マソ)は、中国本土や台湾、韓国で信仰されている航海の女神です。
10世紀後半の中国福建省に生を受けたシャーマンが起源と言われています。井戸から神符を授かった媽祖は神通力を授かり、シャーマンのような行動をとるようになりました。
なぜ、航海の女神と言われるかというと、こんな逸話があります。
自宅でトランス状態となり、その状態を使って兄が乗った難破しそうな船を助けようとした。しかし、途中で母親に心配され揺り起こされトランス状態が解け、助けることが出来なかったと泣き出した。数日後、兄が乗った船は嵐に巻き込まれて死んだことが分かった。
この話には様々なバリエーションがあると言われています。
タンキーとアンイイ
中国の道教的なシャーマン、タンキーとアンイイについてです。
名前の意味は「占いをする若者」で、シャーマン的聖職者・生き神として扱われます。男性がタンキーで、女性がアンイイです。狂乱ともいえる過激な儀礼で知られています。
トランス状態に入ったタンキーは、神刀で自らの舌に傷をつけ、流れた血で神語を記して神符や護符を作ります。それらは灰にして飲むと、絶大な効果があると信じられています。
タンキーは突然のトランス状態になることで選ばれる場合と、自傷行為で流血することで、勇気と霊感を示しタンキーとなる場合とがあります。
タンキーが活躍する法事として「打城法事」と呼ばれるものがあります。これは、ひらたく言うと、亡魂(凶死した冤魂で遺族の不幸の原因)を地獄から救出し、極楽世界に転生させる筋書きを持った法事です。
【まとめ】シャーマンについて
それでは、これまでの流れをおさらいします。
シャーマンとは?
- トランス状態に入って超自然的存在と交信する現象を起こすとされる職能・人物
- 目には見えない超自然的存在と、私たちをつなぐ役割を担っている
- 大昔から存在するが、最近はより気軽にシャーマンを目指すという現象も起きている
シャーマンの実例
- 日本では、イタコ、カミサマ、ユタ、ノロ
- 海外では、オトガン、巫堂(ムーダン)、エスキモー、媽祖(マソ)、タンキーとアンイイ
など、数多くいる。
どういった役割の人で、どんな人々に支持されてきたかをみることで、シャーマンが少し分かりやすい存在になったのではないかと思います。
人は、見えないものに恐れを抱きます。また、生きていく上で、自分の道筋を示してほしいという思いも何かしら出てきます。きっといにしえの人々も同じ感情を抱いていたのだと思います。見えないものに説明をつけること、死者とのつながりを感じること。シャーマンという存在を通じ、人々は心の支えを得てきたのではないでしょうか。
日本のシャーマン「巫女」による舞はこちら