アニミズムとは?シャーマニズムとの違い、日本・海外の実例
「アニミズム」という言葉を聞いたことはあるでしょうか?
なんとなくイメージは沸くけれど、説明するとなると難しい。そんな言葉ではないでしょうか。
今回は、
- アニミズムとは何か?
- イメージが重なる「シャーマニズム」との違いは何か?
- 日本や海外におけるアニミズムとはどういったものか?
についてまとめます。
この記事を読み終えたら、自分の中にあるアニミズムなるものを意識できるようになると思います。
「自然が師」アニミズムを体現する舞はこちら
アニミズムとは?その意味や内容
・アニミズムの意味
アニミズム(英語: animism)とは、
- 生物・無機物を問わないすべてのものの中に霊魂、もしくは霊が宿っている
という考え方です。
日本語では
- 汎霊説
- 精霊信仰
- 地霊信仰
などと訳されています。
この言葉はラテン語のアニマ(anima)に由来しており、
- 気息
- 霊魂
- 生命
といった意味を持ちます。
参照:wikipedia
アニミズムは、「霊的存在への信仰」として、宗教的なるものの最小限の定義だと言われています。
分かりやすくいうと、私たちが神様を信じたり、仏様を拝んだりする、この「何かを信じる」という信仰心の源であるということです。そこから、宗教の起源がアニミズムという言われ方もします。
では、このアニミズムは、誰がどのように定義づけしたものなのでしょうか。
・F・B・タイラーによって定着
アニミズムは、19世紀後半、イギリスの人類学者、エドワード・バーネット・タイラーが著書『原始文化』(1871年)の中で使用し定着させた言葉です。
彼は、一言でいうと、文化も決まった進化の形をとるという文化進化研究の先駆者でした。
これは、同じ時代に出版された『種の起源』(1859年)でおなじみの、ダーウィンの進化論に大きな影響を受けています。
この時代は、アダムとイブから始まる
- 神が万物を創った
というキリスト教的価値観が一般的でした。
それに相反しダーウィンは
- 生物は長い年月をかけ、自然淘汰を繰り返し進化した
という理論を提唱しました。これは当時は非常に画期的な考え方でした。
タイラーも、文化にも決まった進化の過程があると考えました。
- 未開→野蛮→文明
と、低俗なものから、次元が高いものへと進化していく、という考え方です。
そして神に対する考え方も
- アニミズム→多神教→一神教
と発展していくと考えました。
今では、文化はそういった一直線上のものではないと捉え直しがあります。
- 未開 ⇔ 文明
- アニミズム ⇔ 一神教
という考え方に優劣や次元はなく、それぞれが文化のありようとして、それぞれに認められるべきということです。
ただ、キリスト教的な一神教だけではなく、世界にある信仰の形を幅広く比較研究し礎を築いたことは、変わらず彼の大きな功績だと言えます。
そして「アニミズム」という概念の提唱自体が、今なお大きな影響力をもっています。
ちなみにこの『原始文化』の日本語訳は、1962年に出版されていますが、原書は2巻で1,000頁あります。それが270頁程度に内容がまとめられている意訳本です。
その為
- 全訳本が望まれたこと
- 現代の価値観におけるアニミズムの再定義の必要性
から、2019年に待望の全訳が出版されています。
専門書なので値も張りますが、本格的に触れてみたい方のために、以下にご紹介します。
「原始文化」
ここまでで、アニミズムの概念はわかりました。
では、実際にどのようなものがアニミズムの崇拝の対象となるのでしょうか。
・アニミズムにおける崇拝の対象
先ほども述べましたが、アニミズムとは
- 生物・無機物を問わないすべてのもの
の中に
- 霊魂・もしくは霊
が宿っているという考え方です。
そうなると、
- 崇拝の対象は、身の回りを取り囲む、あらゆる全てのもの
と考えることができます。
太陽、月、雲、空、海、川、山、草木、花々、テーブル、イス… 挙げればきりがありません。また、死者、生物、無生物なども際限なく崇拝対象です。
今、アメリカでもこんまりさんのときめき片づけ術が流行っています。
彼女は片づけを行う前に、その「家」に対してまずは感謝を示すことから始めます。これまでお世話になり続けていた感謝、これからもっと理想のよりよい家に変えていく為の儀式です。
いらなくなったものを断捨離していく際にも同じです。「服」や「ガラクタ」に対して、ありがとうと感謝を示してから捨てます。
ものを擬人化し、そのものにも心が宿っているという考え方は、アニミズムに通じています。
これらの考え方、行いはシャーマニズムと似ているとも思えます。両者に違いはあるのでしょうか。
・シャーマニズムとの違い
アニミズムとシャーマニズムの違いを整理するのに、まずは「シャーマニズムとは何か」について整理します。
シャーマニズム(英: Shamanism)とは、シャーマン(巫師・祈祷師)の能力により成立している宗教や宗教現象の総称です。
宗教学、民俗学、人類学(宗教人類学、文化人類学)等々で用いられている用語・概念です。
シャーマニズムの考えでは、霊の世界は物質界よりも上位にあり、物質界に影響を与えているとされています。
ちなみに、シャーマンはどんな人かというと
トランス状態に入った超自然的存在(霊、神霊、精霊、死霊など)と交信する現象を起こすとされる職能・人物のこと
参照:wikipedia
です。日本でいうと、恐山のイタコなどが有名です。この、シャーマンを介して霊的な存在を確認する点が、アニミズムとの大きな違いと言えそうです。
整理すると、アニミズムと違う点は
- シャーマンの能力に依っているところ
- 霊の世界が物質界より上位にあると考えるところ
といえるでしょう。
続いて、海外と日本における具体的なアニミズムについてみていきます。
「自然が師」アニミズムを体現する舞はこちら
海外と日本におけるアニミズム
海外と日本におけるアニミズムについて、具体的な例を示します。
ここでご紹介するのは
海外の
- ケルト信仰
- イヌイット狩りの儀式
日本の
- 神道
- 八百万神
です。
・海外「ケルト信仰」
現代におけるいわゆる「ケルト人」とは、残存するケルト語派の言語が話される国であるアイルランド等の国々の人を指します。
しかし「ケルト信仰」は、現代のケルト人の宗教ということではなく、古代のケルト人の原初的な宗教観を指すようです。
この宗教観の特徴としては
- 死んであの世に還った魂が、この世に何度でも生まれ変わってくる「輪廻転生」
- 肉体は滅びても、霊魂は肉体を離れて存続する「霊魂の不滅」
- 神木の力を重視する「聖樹崇拝」
などがあります。
ケルト人は、元々アジアから渡ってきた民族です。
- 中央アジアの草原から馬と車輪付きの乗り物(戦車、馬車)を持って、ヨーロッパに渡来したインド・ヨーロッパ語族ケルト語派の言語を用いていた民族。
引用:wikipedia
ケルト人は青銅器時代末期、およそ紀元前1200年頃に中部ヨーロッパに広がり、その後も移動を繰り返し、イギリス、アイルランド、フランス、スペインを含む西ヨーロッパに広がったと考えられています。一時期はヨーロッパ全土に広がったケルト人ですが、ローマ帝国の盛況などもあり、やがて紀元前1世紀頃に入ると、各地のケルト人は、他民族の支配下に入るようになっていきます。そして、最終的には私たちがイメージする、現代のケルト人へと集約されていきます。
ケルト人の当初の宗教は、自然崇拝の多神教であり、ドルイドと呼ばれる神官がそれを司っていたと言われています。
ドルイドとは、ケルト人社会における祭祀で、宗教的指導のほか、政治的指導、公私の争い事の調停と、ケルト社会に重要な役割を果たしたそうです。
「ブルータス、お前もか?」のセリフで有名なローマの軍人カエサルが記した「ガリア戦記」(紀元前58~51年)があります。この中に、ドルイドの社会的影響力がケルト人の中でいかに大きかったとの記載があります。この時代には確かにケルト信仰があったと言えそうです。
また、カエサルは、ケルト人の戦いにおける勇敢さや人命への軽視と、ケルト人の死生観を結びつけて考えた、とも言われます。魂はまた生まれ変わる輪廻転生の思想で、死を恐れない果敢な姿勢があったのが想像されます。そういった死生観のない人たちに、驚きを与えたことでしょう。
「ケルト信仰」についてまとめると
- 古代のケルト人の原初的な宗教観は、ドルイドという神官が司る自然崇拝の多神教
- 輪廻転生、霊魂の不滅、聖樹崇拝を信じた
というアニミズムの宗教観と言えます
次は、イヌイット狩りの儀式についてみていきましょう。
・海外「イヌイット狩りの儀式」
イヌイット は、カナダ北部などの氷雪地帯に住む先住民族のエスキモー系諸民族の1つで、エスキモー最大の民族です。
オットセイやセイウチを食べ、トナカイを狩ることもあります。地球上で最も寒冷な地域に昔から住み続け、生活し続けて来た民族です。
ちなみに、エスキモーと呼ばれたり、イヌイットと呼ばれたり違いがどこにあるのか簡単に整理すると
- イヌイットはエスキモー系民族の1つ
- エスキモーという呼び名は、侮蔑の意味を持っており、そういう呼び方をして欲しくないと、カナダに住むエスキモーはイヌイットと呼ばれている
- 一方、アラスカからロシア極東最東部のエスキモーは、イヌイットという呼ばれ方を拒んでおり、エスキモーと呼ばれている
住んでいる地域によって、呼び名が変わると言えそうです。
エスキモーの伝統的な宗教は、
- シャーマンを中心として儀式などを行うシャーマニズム
および
- 精霊・自然崇拝であるアニミズム
とされています。
彼らは「イヌア」という物質や生命の根源のような価値観を有しています。肉体以外の本質があるという考え方です。
これは生物や植物だけでなく、鉱物などの無生物、さらには食事や睡眠などの「行為」にさえも宿っていると考えられています。
狩りの際には、動物のイヌアと関係することになるので、これを傷付けないようデリケートな配慮が要求されます。
地域によって様々な儀式があるようです。
- 膀胱(ぼうこう)祭と呼ばれる祭りで、そのシーズンに殺したアザラシの膀胱を氷の穴から沈め、シャーマンが豊猟を祈る
- 狩ったクマの頭部をその場で内陸のの方に向けて残す (動物のイヌアをしかるべき方向に戻すことで、将来、肉をつけて再来することを期待した行為)
これらはイヌアに考慮した習慣と言えます。
また、様々なタブーもあり
- 狩人は狩りの前後、月経中の女性との接触が忌まれる
ようです。
これは、海の底に住む女性(セドナ)の怒りを招き、結果的に地上から獲物がいなくなると信じられているからです。不猟、悪天候、病気といった災厄は、セドナをはじめとする超自然的存在者が起こす現象だとされています。
余談ですが、木村拓哉さんが主演を務めたドラマ「グランメゾン東京」で、ライバル店gakuの料理監修を行っていたミシュラン2つ星のお店の名前は「イヌア」と言います。このお店の名前は、今みてきたイヌアに由来するそうで、「大自然に宿る生命の力や精神を意味する、イヌイットの神話に語源をもつ言葉」とお店のHPにも紹介されています。
話題となったドラマと、こんなところでつながっていると思うと、面白いですね。
まとめると、イヌイット(エスキモー)は
- 「イヌア」という物質や生命の根源のような価値観をもっている
- 狩りの際には動物のイヌアと関係することになるのでデリケートな対応が求められる
- そのために、様々な儀式やタブーがある
ということです。
続いて、日本の「神道」「八百万神」についてみていきます。
・日本「神道」「八百万神」
神道とは
- 日本の宗教
- 教典や具体的な教えはなく、開祖もおらず、神話・八百万の神・自然や自然現象などにもとづくアニミズム的・祖霊崇拝的な民族宗教
- 自然と神とは一体として認識され、神と人間を結ぶ具体的作法が祭祀であり、その祭祀を行う場所が神社
八百万の神とは
- 自然のもの全てには神が宿っているとする考え方
- 欧米の辞書にはShintoとして紹介されている
- 日本では古くから、山の神様、田んぼの神様、トイレの神様(厠神 かわやがみ)、台所の神様など、米粒の中にも神様がいると考えられてきた
神道の考え方の中に、八百万の神があるという感じでしょうか。八百万の神は、すべてのものに霊が宿るとするまさにアニミズム的な宗教観です。
ジブリ映画の「千と千尋の神隠し」では、まさに八百万の神々が、湯屋に集っている様子が描かれています。この映画はドイツのベルリン国際映画祭で金熊賞を受賞し、さらにアメリカのアカデミー賞で長編アニメ映画賞を受賞するなど、海外での評価も非常に高い作品です。
作品のクオリティと素晴らしさはもちろんですが、日本的な宗教観がウケた側面もあるのではないでしょうか。
最後に幼児期のアニミズムについてみていきます。
・幼児期のアニミズム
幼児期のアニミズムとは思考の一特徴で、命のない事物を、あたかも命があり、意志があるかのように、擬人化して考える傾向です。
これは物活論とも呼ばれ、ジャン・ピアジェという20世紀のスイスの心理学者により提唱されたものです。
子どもの発達段階の1つの過程と考えられています。ただの石ころやおもちゃも、私たちと同じように命や意思ががあると考えます。
子どもの頃によく見たアンパンマン。みんなが夢中になるのは、様々なキャラクター達が私たちと同じようにいきいきと活躍しており、幼児期の心情にぴたりとはまるものだからなのでしょうか。
【まとめ】アニミズムとは?その意味やシャーマニズムとの違い
これまで調べてきた内容を、もう一度振り返り、整理します。
<アニミズムについて>
アニミズムの意味とは?
- 生物・無機物を問わないすべてのものの中に霊魂、もしくは霊が宿っているという考え方
アニミズムの始まり
- 「霊的存在への信仰」として、宗教的なるものの最小限の定義
- 宗教の起源
F・B・タイラーによって定着
- イギリスの人類学者の「原始文化」の中で使われ定着
アニミズムにおける崇拝の対象
- 身の回りを取り囲むあらゆる全てのもの
シャーマニズムとの違い
- シャーマンを介さない
- 霊の世界と物質界に上下をつけない
<海外と日本におけるアニミズム>
海外「ケルト信仰」
- ドルイトという神官が司る
- 輪廻転生、霊魂の不滅、聖樹崇拝
海外「イヌイット狩りの儀式」
- 「イヌア」という物質や生命の根源の価値観を持つ
- 狩りの際には動物のイヌアを傷付けないように配慮するための儀式やタブーがある
日本「神道」「八百万神」
- 経典や具体的な教えはなく、自然のすべてのものに神が宿っていると考える
幼児期のアニミズム
- 思考の1つの特徴で、命のないものをあたかも命や意思があるように考える傾向
これまで見てきたように、アニミズムには様々な地域で、様々な形をとります。ただ、根本にあるのは同じで、八百万の神々に親しみのある日本人の私たちには非常になじみのある概念に思います。
これでアニミズムの概念を理解し、自分の中にあるアニミズムの感覚を、感じることができたのではないでしょうか。身の回りの様々なものに思いをはせ、感謝して生きる。そういう考え方にも、繋げていきたいものです。
「自然を師」とする、アニミズムを体現する舞はこちら