四方拝とは?古来より重要な儀式の隠された内容とやり方
日本では四季や暦の中の様々な節目に行われる儀式があります。特に新年を迎え、元旦に行われる儀式である「四方拝(しほうはい)」は特別に重要な儀式といえるでしょう。
実際に私たちの目には触れない儀式なのですが、その内容とはいったいどんなものなのでしょう。
ここでは
- 「四方拝」という儀式の内容
- 実際に私たちが行う場合のやり方
についてご紹介していきます。
お正月の行事として取り入れてみてはいかがでしょうか。きっと良い一年のスタートが切れると思いますよ。
元巫女による創作舞はこちら
四方拝について
四方拝とは
四方拝は毎年1月1日、元旦の早朝に宮中で行われる儀式で、皇室祭儀の四大節のひとつです。天皇が天地四方の神祇を拝し、年災消滅・五穀豊穰を祈るのです。
元旦に宮中で行われる祭の「歳旦祭(さいたんさい)」の前に宮中・神嘉殿の南庭で天皇により行われます。
元々は皇室令の一つ、「皇室祭祀令」の23条に定められていましたが、廃止された現在では一般公開はされず、皇室の私的行事とされています。
四方拝の始まり
始まりは平安時代(794年〜1185年)初期と言われており、宇多天皇の時代に定着したとされ、「宇多天皇御記」にある寛平2年に行われた記録が最古のものとなっています。
平安時代
当時、病気や疫病、地震・火災などの災いごとは神の祟りが起こすものとされていて、当時の平安貴族の間で主流だった陰陽道が基本となり、神祇祭祀の中には陰陽要素を含む祭祀が多くありました。その中でも元旦に行われる四方拝は特別なものだったことでしょう。
安土桃山時代
この時代では豊臣秀吉により、陰陽師の弾圧や迫害が始まり、陰陽道は一気に力を失っていき、代わりに神道色が強くなっていくのです。
他の宮中祭祀は摂関や神祇伯が代拝することが多くなりましたが、四方拝は代拝は行われませんでした。これは天皇本人の守護星や父母に対する拝礼であったためです。
15世紀後半の応仁の乱で一時中断されましたが、後土御門天皇の時代である文明7年(1475年)に再興され、19世紀後半の孝明天皇の時代まで京都御所の清涼殿で行われていました。
明治時代以降
明治時代以降は、それまであった道教の影響である北斗七星信仰などは排除され、神道の祭祀として再構成され、国の行事「四方拝」として行われ、現在も受け継がれています。
また、現在では個人でも四方拝を取り入れ、元旦に家庭で四方拝をおこなっている方も多いようです。
四方とは方角のことなので、それぞれの方向に向けて神々に祈りを捧げて1年の無事を願うのです。
ここからはご家庭においての四方拝の内容とやり方をご紹介していきます。ぜひ皆さんも取り入れてみてはいかがでしょうか。
四方拝の内容とやり方
四方拝の儀式大要
元旦の朝5時30分に天皇のみが着ることが許されている「黄櫨染御袍(こうろぜんのごぼう)」を纏い、伊勢神宮・山陵・天地四方の神々を拝す儀式です。
拝する神々は
- 伊勢神宮(内宮・外宮)
- 天神地祇(すべての神々)
- 神武天皇陵
- 先帝三代の陵
- 武蔵国一宮
- 山城国一宮
- 石清水八幡宮
- 熱田神宮
- 常陸国一宮
- 下総国一宮
となります。
自身で行う場合、服装は身だしなみに気をつける程度でも良いですが、神様へのお祈りですのでカジュアルすぎる服装は避けて、なるべく正装することが望ましいでしょう。
また、天皇は日本国のために行うので全国の神宮・一宮に向けて拝みます。もちろん同じように行うのも良いのですが、私たちが行う場合は方角について把握するのは少し難易度が上がるのでもう少し簡略化しても良いと思います。
次にやり方のポイントと合わせて紹介します。
四方拝のやり方のポイント
やり方のポイントとしては3つの点に注意して行いましょう。
1番最初は北に向かって、北極星・北斗七星、北辰を拝みましょう
- 北極星・北辰は大変な力を持っています。昔の権力者たちはこのことから民衆から北辰信仰を取り上げてきたという歴史もあるほどです。
次は、時計回りに拝んでいく
- 北→東→南→西の順に拝んでいきましょう。北辰スタートとして、北辰→東→南→西→北というふうにしても大丈夫です。
- 先ず、「〜(方角)にまします全ての御神仏、ありがとうございます。」と言ったふうに唱えるといいでしょう。
最後は、伊勢神宮・鎮守様・先祖の墓地(父方・母方両方)を拝みましょう。
- 伊勢神宮は日本人にとって特別なものです。また、鎮守様と合わせて陰陽の関係になっています。
- 天皇の山陵にあたるものは私たちの場合、先祖の墓地になります。父方・母方両方を拝みましょう。
- 方角がだいたいでも東西南北にあたる場合はそれぞれの方角の神仏の後に続けて唱えるのもいいでしょう。
四方拝の呪文
唱える呪文は、平安時代の書物で、宮中の儀式などを記した「江家次第(こうけしだい)」によると
- 賊寇之中過度我身(ぞくこうしちゅうかどがしん)
- 毒魔之中過度我身(どくましちゅうかどがしん)
- 毒氣之中過度我身(どくけしちゅうかどがしん)
- 危厄之中過度我身(きやくしちゅうかどがしん)
- 五急六害之中過度我身(ごきゅうろくがいしちゅうかどがしん)
- 五兵六舌之中過度我身(ごへいろくぜつうしちゅうかどがしん)
- 厭魅之中過度我身(えんみしちゅうかどがしん)
- 萬病除癒、所欲随心、急急如律令(まんびょうじょゆ、しょよくずいしん、きゅうきゅうにょりつりょう)
と書かれています。
要約すると、
「この世で起こる様々な困難は我が身を通して下さい。全て私が引き受けるので、国民をお守り下さい。」
という意味で、自らを捧げ、神々へ国民の安泰を祈っているのです。
何よりも先ず、自らを捧げ、家族や周りの人々の平和を願う気持ちを持つことが大切ということでしょう。
一般公開はないので画像はありませんが紹介動画もつけておきます。
【まとめ】四方拝について
四方拝とは
- 毎年1月1日、元旦の早朝に宮中で行われる儀式で、皇室祭儀の四大節のひとつ。
- 元旦に宮中で行われる祭の「歳旦祭(さいたんさい)」の前に宮中・神嘉殿の南庭で天皇により行われる。
- 現在では一般公開はされず、皇室の私的行事とされている。
- 始まりは平安時代(794年〜1185年)初期。
- 神道の祭祀として再構成され、国の行事「四方拝」として行われ、現在も受け継がれている。
四方拝の内容とやり方
- 元旦の朝5時30分に天皇のみが着ることが許されている「黄櫨染御袍(こうろぜんのごぼう)」を纏い、伊勢神宮・山陵・天地四方の神々を拝す儀式
- 拝する神々は、伊勢神宮(内宮・外宮)・天神地祇(すべての神々)・神武天皇陵・先帝三代の陵・武蔵国一宮・山城国一宮・石清水八幡宮・熱田神宮・常陸国一宮・下総国一宮
- 1番最初は北に向かって、北極星・北斗七星、北辰を拝む。
- 次に、時計回りに拝んでいく。(東→南→西→北)
- 最後に、伊勢神宮・鎮守様・先祖の墓地(父方・母方両方)を拝む。
私たちがお正月で新年を迎えている中、宮中ではこのような儀式が行われているのです。
まさに一年のスタートにふさわしい儀式となっていますので、皆さんも実際に宮中で行われている時間に合わせ、お祈りを捧げてみてはいかがでしょうか。きっと良い一年を迎えられることでしょう。
元巫女による創作舞はこちら