巫女舞のすべて!歴史や役割、見学できる神社からお教室まで
日本の文化のひとつに「舞」があります。日本舞踊や歌舞伎など、芸能としての一面の他に、神社で行われる祭祀に神事として神に奉納されていることをご存知でしょうか。
舞は宗教や信仰といった部分とも大きく関わりがあるのです。
ここでは、神社で行われる「舞」のひとつ、「巫女舞」についてご紹介していきます。
巫女舞の始まりから、歴史を理解し触れることで新しい「舞」の世界を感じることができると思います。
古式巫女舞をベースにした創作舞はこちら
巫女舞とは
巫女舞とは神社で祭祀を補助する「巫女」の舞となります。
今では職業として、神社で働いているイメージが強い巫女ですが、その昔、巫女はシャーマンの能力を持っていました。元々はこの能力を行使するための手段として舞が使われたのです。
現在の巫女舞としての形は、明治時代以降に確立された「巫女神楽(みこかぐら)」と呼ばれる神道においての神事のひとつとなっているものを指すことが一般的となります。
巫女舞の役割
先述の通り巫女舞は、憑依巫女による神との交信の際に行われる儀式のひとつでした。神に舞を捧げ、楽しんでもらうことで心を和ませ、降りてきてもらえやすくするための儀式です。
明治時代以降は憑依という神がかりの色はなくなり、神道での神事の際に神への感謝の気持ちを込め、奉納されるようになりました。この頃から芸能色も強くなり、より華やかな舞も新しく創作され、多くの神社で祭礼の際に行われるようになったのです。
時代が変わり、様々に変化している巫女舞ですが、その役割は「神に捧げる舞」ということに変わりはないのです。
巫女舞の歴史
巫女の起源は日本最古の書物である「古事記」や「日本書紀」にある神話になります。
この神話の中で登場する技芸の女神の「天鈿女命(あめのうずめのみこと)」が舞った舞が巫女舞の始まりと言われています。
天鈿女命は太陽神「天照大御神(あまてらすおおみかみ)」が天岩戸に隠れてしまい、世界から日の光を失ってしまった際に岩戸の前で舞を舞ったのです。その舞につられて岩戸から誘い出され、天照大御神が戻ったことで世界に火の光を取り戻すのです。この神話は「岩戸隠れ」というお話で、聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。
その後、弥生時代に入ると憑依による神からの神託を伝える能力を持つ巫女が現れます。
彼女たちは儀式の際に、舞を捧げることで神をその身に憑依させ、神からの言葉を伝えていました。これが巫女舞の元になっています。この儀式による神託は人々の生活になくてはならないものとなり、巫女を中心とした社会が形成されていくのです。
この時代で一番有名な巫女は「邪馬台国」の「卑弥呼」でしょう。一国をつくった彼女も憑依による神託を授かる巫女でした。
平安時代以降は、巫女の社会的地位は低下し、権力階級から離れてしまいますが、憑依巫女の能力は受け継がれ、民間で巫女舞の儀式は受け継がれていったのです。
その後、明治時代の「巫女禁断令」により、憑依巫女による巫女舞は廃止されてしまいますが、芸能文化としての巫女舞が復活し、神社の祭礼でも奉納されるようになりました。
この頃は、新しい舞も創作され、現在奉納される巫女舞はこの時期につくられた舞がほとんどとなっています。
この時期に創作されたもっとも有名な舞「浦安の舞」の動画になります。
巫女舞の種類
巫女舞は大きく分けて「神楽(かぐら)」と「舞楽(ぶがく)」に分かれます。
「神楽」は一般的に神社での神事の際に行われる舞のことです。巫女舞はこの神事由来のものが多く、
- 四方拝(しほうはい)
- 剣の舞(つるぎのまい)
- 湯立神楽(ゆだてかぐら)
などがこれにあたります。神社に奉仕する巫女の全員が巫女舞を舞うわけではなく、舞を舞う巫女を舞姫(まいひめ)、舞人(まいびと)、八乙女(やおとめ)などと呼んだりすることもあります。
「舞楽」は中世以前に大陸から伝わった舞踊で、
- 中国から伝わった唐楽(とうがく)
- 朝鮮半島から伝わった高麗楽(こまがく)
などがあります。その見た目の華やかさから神社でも文化芸能として舞われることも多く、神事の際にも巫女による巫女舞として奉納されています。
巫女舞の衣装
装束は一般的には通常の巫女装束となる
- 白衣(はくえ・びゃくえ・しらぎぬ)
上半身にまとう白い小袖。元々は下着でしたが後に表着化しました。
- 緋袴(ひばかま)
下半身を覆う緋色の袴。神社によっては濃色(濃い紫)の袴を使用しているところもあります。
- 千早(ちはや)
白衣の上に着る羽織りもの。白い無地のものが一般的です。
が使用されます。
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また、巫女は長い黒髪も装束の一部とされていて、その維持が求められています。後ろの生え際から下でひとつに束ね、檀紙(だんし)で作られた丈長(たけなが)や水引でまとめます。
頭には花簪(はなかんざし)や折枝(せっし・おりえだ)などの髪飾りで装飾したり、天冠(てんかん)を着用したりします。
舞の際に手に持つ道具を「採り物」と呼びますが、舞の種類や神社によって様々な採り物が使用されます。
- 榊(さかき)
- 御幣(みてぐら)
- 扇(おうぎ)
- 鈴(すず)
などが使われることが多いようです。
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最後に、現在に受け継がれている舞のひとつをご紹介しておきます。
巫女舞の現代版「創作舞」
創作舞とは、日本古来より巫女を中心として発展してきた「舞」を、現代に生きる人が自らの感性で創作した舞をいいます。
それだけだとイメージがつきにくいと思うので、代表的な創作舞として、柳元美香氏の主催する「観音舞」をご紹介します。
観音舞は「音を観る舞」と書いて字のごとく、自らの内にある感覚・感性という「音」を聴き、さらに自然の中にあふれる「音なき音」と呼応し、自然と身体に溢れてくる動きを舞にしたためています。
まさに、創作舞ですね。
柳元美香氏は、母国文化の源流を追求し、神社の巫女に8年間奉職した経験を持っています。また、古式巫女舞の師匠に弟子入りしていただ時期もあります。このような根っことなる背景があるからこそ、舞を創作できるのですね。
観音舞について、次のように表現している方もいます。
「女性であればだれもが持って生まれた、母性や慈愛の心を響かせ舞う舞です。母国文化の源流を追求し、神社の巫女に8年間奉職。 自然に根ざした日本古来の心を、一本の揺るぎない基軸として舞うことの原点を目指しています。」(引用:本質的な美しさに目覚める舞〜観音舞〜)
女性が生まれ持っている美しさや心を引き出すからこそ、動画のように柔らかく美しい表現ができるのかもしれません。
このように、巫女舞には伝統的な舞から、現代を生きる人の感性によって舞起こされた舞まであります。
では、これらの舞はどこで習えるのでしょうか。
巫女舞を習うなら?
観音舞
先ほどご紹介した「観音舞」は、全国に伝え手がおり、それぞれの場所でお稽古会を開催しています。
家元による対面クラスは基本非公開のようですが、どなたでも参加できるオンラインクラスがあるようです。興味ある方はお問い合わせください。
浦安の舞
一般社団法人「神社音楽教会」の主催で「浦安の舞」の講習会が行われています。
- 明治神宮(東京都渋谷区)で4月2日〜4月6日と8月26日〜8月30日の年2回
- 橿原神社(奈良県橿原市)で6月2日〜6日
の年3回で日にちは毎年同じになっています。明治神宮では90回以上開催されている伝統のある講習会です。
豊栄の舞
神田神社(東京都千代田区)では巫女の入門講座が開かれており、講座内で「豊栄の舞」の練習も行われています。
その他、巫女に必要な知識についての講義や茶道の実習なども合わせた講習となっています。
応募資格は高校生から22歳の未婚女性となり、初級編、中級編に分かれており、舞は中級編で練習できます。
舞楽
三田徳明雅楽研究會・雅楽瑞鳳会(東京都江戸川区)では「舞楽」の講座が行われています。
子供向けの教室や雅楽楽器の演奏講座も開かれていて、初心者から経験者まで対応しています。
巫女舞を見れる場所
観音舞
観音舞は、全国の神社仏閣にて舞を奉納しています。ご自宅の近くでも見学できる機会があるかもしれません。
時期によって奉納が多いとき、少ないときとばらつきがあります。奉納情報はホームページの「お知らせ」に出ています。
年に1回のペースで舞台も主催しています。神社仏閣ではなく、劇場で、照明から音楽まで作り込まれた世界観を体験できます。
浦安の舞
こちらの最後の章「浦安の舞はどこで見れるの?」で紹介しています。
浦安の舞とは?意味や衣装、歌詞、見学方法など徹底解説!
豊栄の舞
こちらの最後の章「豊栄の舞はどこで見れるの?」で紹介しています。
豊栄の舞とは!意味や歌詞、装束は?映像つきで簡単に解説!
【まとめ】巫女舞について
巫女舞とは
- シャーマンの能力を持つ巫女の儀式のひとつ。
- 現在の巫女舞は「巫女神楽」と呼ばれる神道の神事。
巫女舞の役割
- 巫女がその身に神を憑依させるために行う。
- 神道においては、神に願いや感謝を伝えるために奉納される。
巫女舞の歴史
- 起源は神話「岩戸隠れ」に由来する天鈿女命の舞。
- 弥生時代には巫女を中心とした国家が誕生し、神の神託を得るための儀式として行われる。
- 明治時代では一時廃止されたものの、文化芸能としての意味合いを強めた巫女舞が復活し、神道において神事の際の奉納行事として神社で取り入れられるようになった。
巫女舞の種類
- 神社での神事の際に行われる巫女舞を「神楽」という。
- 中国から伝わった「唐楽」や朝鮮半島から伝わった「高麗楽」が起源のものを「舞楽」という。
巫女舞の衣装
巫女装束である、
- 白衣
- 緋袴
- 千早
が使われる。
長い黒髪が求められ、ひとつに束ねた髪を丈長や水引で束ね、頭には花簪をつけたり、天冠をかぶり装飾される。
採り物としては、
- 榊
- 御幣
- 扇
- 鈴
が使われる。
華やかさが目を引く巫女舞ですがその歴史は長く、その存在意義も人々の暮らしに密接に関わり、継承されてきました。その舞には今も変わらず、人々の願いや思いが込められていることでしょう。
神社などで見ることができた時は、自分の思い描く神様へ願いや思いを伝えることを意識してみてはいかがでしょうか。今まで以上にその存在を感じることができるかもしれませんよ。