祖霊信仰はいつから日本にあるの?起源は神道・仏教のどっち?
小さい頃からお盆になるとおばあちゃん家に帰りお墓参りをしたり仏壇に手を合わせたりなど、ご先祖様を身近に感じてきた方も多いのではないでしょうか。無宗教が多いとされている日本ですが『日本宗教観』で調査結果、先祖を敬う気持ちが94%と多くの人が祖先を大切にしていることがわかります。
今回は「祖霊信仰とは何か」を次の2つの視点からご紹介します。
- 祖霊信仰について:祖霊信仰の起源や中国、韓国の祖霊信仰文化について
- 日本の祖霊信仰について:日本独自の祖霊信仰について
この記事を読めば今まで日常の中に溶け込んでいたこの信仰がどうして生まれたのかが分かり、より一層祖先を大切に想う心が強くなることでしょう。
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祖霊信仰について
祖霊信仰について、次の項目に分けて詳しくご紹介していきます。
- 祖霊信仰の考え方
- 祖霊信仰の起源
- 中国の祖霊信仰
- 韓国の祖霊信仰
では見ていきましょう。
祖霊信仰の考え方
日本では、仏教が入ってくる以前から
- 祖神
- ご先祖様
という祖霊信仰があったといわれており、この考えは後の神道、神社の神様の教えの元となる一つとされています。家に仏壇を置いたり、お盆や彼岸にご先祖様をまつり御加護を願う行事も祖霊信仰です。
また、お正月に「門松」や「しめ縄」、「鏡餅」など年神様を迎えるための行事も、地域によっては年神は家を守ってくれる祖先の霊として祀る地域もあります。
祖霊信仰の起源
祖霊信仰は縄文時代、弥生時代から行われていると考えられております。しかし、キリスト教やイスラム教のように教祖がいたわけではなく「自然発生的に生まれた信仰」です。
先祖が開いた農地に植えた稲作が育ち、先祖への感謝が生まれ、何も災害がなかったことに太陽や雨という自然物への感謝が生まれるようになります。その考えが徐々に広まると、祖先を祀る働きが生まれ自然と「祖先信仰」が人々の日常の中に生まれたと言われています。
また、このような祖先崇拝は、日本を除いては中国や太平洋地域の一部の限られた場所にしか見ることができません。
では、中国と韓国ではどのような祖先信仰の形があるのでしょうか。
中国の祖霊信仰
中国最古の王朝である「殷の時代」には、もうすでに祖先崇拝の文化が存在していたと言われています。病気や災害は天や祖先の祟りで、それをなだめるため祭祀が行われていたり、祖先を敬うことは社会秩序の維持のためにも重要であったと考えられていました(殷は強固な父系社会であったため)。
周の時代になると、福は祖先から災いは天からもたらされるという考えになり、子孫の幸福のために祖先を祀るという考えが生まれました。
その考えを中国全土に普及させたのは孔子およびその弟子たちです。彼らは儒教を通して家父長制である家族関係をもとに社会秩序を再構築することを説法しました。儒教はその時大きな影響力を持っていませんでしたが、漢の時代に儒教の経典が公認されたことにより中国全土へ広がったのです。
中国の祖先崇拝は少し厳しく、祖先となるには死者でないと行けないが、下記のような人は祖先として崇拝される者でないという考えがあります。
- 若くして亡くなられた者
- 未婚の者
- 横死した者(殺害されたり、災禍などが原因で亡くなること。)
また、自分を崇拝してくれる子孫にも決まりがあり、
- 自分と同じ姓の宗族員
- 男子もしくは婦人の地位を持つ女性
でないといけないとされています。
祖先は神明(天地万物を創造した神)と鬼魂(幽霊)の中間的存在であるから、きちんとした供養を欠かさなければ一族を栄えさせるが、供儀を怠ると鬼魂に変化し子孫に悪影響を及ぼすと考えられています。
韓国の祖霊信仰
韓国にも日本の法事に当たる祭祀があり、
- ソルラル(旧正月)
- チュソッ(秋夕)
- 曽祖父の忌日
- 祖父の忌日
- 父の忌日
に家族が集まって行われます。韓国人にとって祖先は同一体であると考えられており、同じである条件が「血」です。
その考えがよく現れるのが養子です。日本の場合は「優秀な子を養子にする」もしくは「上司の子供のうち、家を継ぐことのない次男や三男を養子にする」といったように、家の発展を願って出世しやすそうな子を養子に選んでいました。
それに対し、韓国は「同じ苗字の子」を養子に迎えます。その理由は同じ苗字は父・祖父・曽祖父と辿っていけば、どこかで同じ先祖に当たる、すなわち「血」が同じであるという考えがあったためです。父・祖父・曽祖父と男性側だけ辿るのも家系の血が関係しています。またこの祭祀を行う際も将来この家の血を残す長男が行います。
以上、ここまでは「祖霊信仰について」そして「中国、韓国の祖霊信仰」について詳しく掘り下げてきました。
続いて、日本の祖霊信仰についてより詳しく見ていきましょう。
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日本の祖霊信仰について
次の3つに分けてご紹介したいと思います。
- お盆
- お彼岸
- 兵庫県 淡路島「ヤマドッサン」
では見ていきましょう。
お盆
お盆は日本古来の祖霊信仰と仏教が融合した行事です。
かつては太陰暦の7月15日を中心とした期間に行われていました。明治期には太陽暦が採用され、新暦7月15日に合わせると農繁期と重なってしまい支障が出る地域が多かったため、新暦8月15日をお盆とする地域が多くなりました。
お盆の明確は起源は分かっておらず、1年に2度(初春・初秋)の満月の日に祖先の霊が子孫のもとを訪れて交流する行事があり、時代が流れていくとともに祖霊の年神として神格を強調されお正月の祭りに変化していきました。8世紀頃には夏に祖先供養を行う風習が確立されたと考えられています。
実はお盆帰りだけでなくお盆前には準備があります。
それが、
- 釜蓋朔日
- 七夕
- 迎え火
- 送り火
です。
地域によって異なりますから、やったことはないけれど聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。詳しく見ていきましょう。
- 釜蓋朔日(かまぶたついたち)(1日)
地獄の窯の蓋が開く日。この日を境に墓参りなどをして、ご先祖様などをお迎えし始めます。地域によっては山や川から里へ通じる道の草刈りをし、普段山や川にいる故人の霊が通りやすいようにするという意味があります。
地域によっては「この時期は池や川、海などに近づいたり入ったりしてはいけない」というところもあるそうです。
- 七夕(7日)
七夕は「棚幡」(たなばた)とも書き、昔は故人を迎える精霊棚とその棚に安置する幡(ばん)をこしらえる日でした。秋の豊作を神様に祈るためです。笹は依り代で、先祖が笹を目印に家に帰ってくると考えられていました。
現在のように短冊を吊すようになったのは江戸時代以降で、徐々に願い事を書いて笹竹に吊るのが習わしに変化していったのです。
- 迎え火(13日)
一般的には7月13日もしくは8月13日の夕刻に行います。火を焚くのはご先祖様が迷子にならないようにという願いを込められています。
- 盆踊り(16日)
寺社の境内などに老若男女が集まって踊るのを盆踊りと言います。一度でも盆踊りに参加したことがある人は多いのではないでしょうか。これは地獄での受苦を免れた亡者たちが、喜んで踊る状態を模したといわれており、主にお寺の境内で行われることが多いですが最近は駅前広場などの人が多く集まれる広場に露店を置き行うところも多くなっています。
- 送り火(16日)
特に有名なのが京都の五山送り火ではないでしょうか。地域によっては川へ送る(灯籠流し)を行う風習があるところもあります。昨今では火を焚ける場所が限られているため、電気式の盆提灯を使う場所もあります。そうしてご先祖様を山もしくは川まで送り出します。
お彼岸
お彼岸とは「彼の岸」つまり悟りの境地を意味し、サンスクリット語である「パーラミンター(波羅蜜多)」の漢訳語である「到彼岸」からきています。
この行事は年に2回あり、
- 春彼岸 : 毎年3月の春分の日をはさんで前後3日合計7日間
- 秋彼岸 : 毎年9月の秋分の日をはさんで前後3日合計7日間
だと言われています。
806年に日本で初めて仏教行事として彼岸会が行われました。それは「日本後紀」の2月条に「毎年春分と秋分を中心とした前後7日間、「金剛般若波羅蜜多経」を崇道天皇(早良親王)のために転読させた」と記されていることから分かります。
お彼岸は何をするかと言いますと「お墓参り」です。仏壇を掃除しお花やお線香を供えご先祖様に対し合掌を捧げ、中にはおはぎ、団子やお霊供膳(れいぐぜん)、珍しいお菓子、果物などをお供えするところもあります。
お正月
あまりご先祖様を迎えるイメージがありませんが、実はお正月に迎える「年神様」は家を守ってくれる祖先の霊です。豊作を守護する神と家を守護が同一視されたのと、田の神も祖霊も山から降りてくるとされていたため、家を守る年神様も祖先の霊と考えられています。
それがよくわかるのがお正月に見られる「門松」、「しめ縄」「鏡餅」です。
- 門松
今では買ってくることが多くなりましたが、昔は近くの山に行って採ってきて「松迎え」を行います。山から採ってくる、つまりは神様を山からお迎えする「依り代」の役割を果たしているためお正月になると飾られるようになりました。
- しめ縄
秋に収穫された稲の藁で作られた「しめ縄」を年神様を迎える場所に貼り、聖なる空間を作ります。秋に収穫された稲の藁で作るのは、田の神に見守られ育った稲には「稲魂(いなだま)」という霊魂が込められていると考えられていたからです。
- 鏡餅
丸くして積み重ねられた鏡餅は、心臓の形すなわち霊魂を表したものだと考えられています。田の神に見守られながら育った稲が米となり、そのお米を使用して作られた鏡餅を神さまにお供えし、それを人間が食べることによって新たな力が授けられると言われています。
このことからお正月も祖先を信仰する「祖霊信仰」だと言われています。
兵庫県 淡路島「ヤマドッサン」
ヤマドッサンとは「山年神」を意味します。まさに山からやってくる年神さまです。
田の神・山の神・年神である尉(老翁)と姥をヤマドッサンと呼び、正月9日に鍬(くわ)と簑笠(みのかさ)の前に供物をいろいろ並べ年神さまをお迎えして豊作を祈ります。
【まとめ】祖霊信仰について
最後にまとめましょう。
- 祖霊信仰の考え方
仏教が入ってくる以前から「祖神」、「ご先祖様」「仏様」という祖霊信仰があったといわれている。またこの考えは後の神道、神社の神様の教えの元となる一つとされています。
- 祖霊信仰の起源
祖霊信仰は縄文時代、弥生時代から行われていると考えられております。しかしキリスト教やイスラム教のように教祖がいたわけではなく「自然発生的に生まれた信仰」である。
このような祖先崇拝は日本を除いては、中国や太平洋地域の一部の限られた場所にしか見ることができない。
- 中国の祖霊信仰
中国最古の王朝である「殷の時代」にはもうすでに祖先崇拝の文化が存在していたと言われており、周の時代になると、福は祖先から災いは天からもたらされるという考えになり、子孫の幸福のために祖先を祀るという考えが生まれた。中国の祖先崇拝は少し厳しい。
- 韓国の祖霊信仰
韓国にも日本の法事に当たる祭祀があり、ソルラル(旧正月)、チュソッ(秋夕)、曽祖父、祖父、父の忌日に家族が集まって行われます。またこの祭祀を行う際は将来この家の血を残す長男が行う。
イベントとして迎えるお正月も、実は祖先崇拝がもとになっているとは驚きですよね。
我々日本人が日常的に行っていることが実は仏教が元になっていたり、神道が元になっているものは他にも沢山あります。無宗教だと思っていたけれどそれはもしかしたら、日常に溶け込みすぎて「無意識」になってしまっているからかもしれません。これを機に調べてみると新たな世界に出会え、考え方が変わること間違いなしです。